トラウマ



 



あいつがうちに来てから1ヶ月ほどが経った。
俺は相変わらず奴隷のようにコキ使われていたが、それが当たり前になっていたし、ひどいことだとは全く思っていなかった。
この頃になると、俺もあいつの対応に慣れてきてビクビクすることもなくなっていた。
言うことさえ聞いていれば、あいつは暴力などはしなかった。
両親にバレるのを恐れたためだろう。












 




レイチェル「今日も暇ね。」

ローガン「・・・・。」












 




レイチェル「なにか面白い話はないの?」

ローガン「面白い話?」

レイチェル「ママとパパの秘密とか。あんたなにか知らない?」

ローガン「僕知ってるよ!」












 




レイチェル「なによ?」

ローガン「あのね、パパとママ、時々僕に隠れてこっそりゲームしてるんだ。」

レイチェル「ゲーム?テレビゲームかなにか?」

ローガン「よくわかんないけど。僕が部屋に行くとすっごく慌てるんだよ。」

レイチェル「それってもしかして、ママとパパ裸でやってない?」

ローガン「裸じゃないけど・・・パンツははいてたよ。」











 



レイチェル「それはセックスっていうのよ。」

ローガン「せっくす?それはどんなゲームなの?」

レイチェル「ゲームじゃないわよ。大人がする気持ちいいことよ。」

ローガン「気持ちいいの?どうして隠れてやるの?」

レイチェル「人前でしちゃ恥ずかしいことなのよ。」

ローガン「恥ずかしいゲームなのか。」

レイチェル「だからゲームじゃないってゆってんでしょ。」











 



レイチェル「 (暇だからサムに電話しましょ。) 」


レイチェルが携帯を取り出す。












 




レイチェル「サム?今日は会える?最近ちっとも会ってくれないじゃないの。寂しいわ。」












 




レイチェル「え?今日もだめなの?どうしてよ。ちょ・・・サム!」












 




レイチェル「 (切られた・・・・・。あの人・・・・結局奥さんの元に戻るつもりなんじゃないの!散々私には離婚するからって言ってたくせに!ホントむかつくわ。) 」












 



ローガンの部屋にレイチェルが入ってきた。


レイチェル「ねぇローガン。」












 





ローガン「なぁに?レイチェルさん。」

レイチェル「あなた、パパとママがしてた遊び、してみたくない?」

ローガン「せっくすのこと?でも大人のするゲームじゃないの?」

レイチェル「子供でもできるわよ。やろうと思えばね。」

ローガン「教えてくれるの?」

レイチェル「えぇいいわよ。」












 



レイチェル「じゃあ服を脱ぐのよ。」












 




ローガン「どうしてパパたちのお部屋でやるの?」

レイチェル「あんたのベッドじゃ狭いからよ。」

ローガン「ベッドでやるゲームなの?」

レイチェル「そうよ。」












 




ローガン「どうして髪の毛を長くしたの?」

レイチェル「このほうが雰囲気が出るでしょ。どう?色っぽい?」

ローガン「うん。(色っぽいってなんだろう?) 」

レイチェル「さぁ、ベッドにあがって。」












 




このときのことはなにをされたのか俺は全く覚えていない。
たぶん記憶を封印したんだろう。
思い出そうとすると頭痛がする。
思い出したくもないが。













 




レイチェル「今日のことは誰にも秘密よ。いい?」

ローガン「うん・・・。」

レイチェル「友達にも絶対話したりしたらダメよ?誰かにバラしたらロッキーを殺すからね。」












 




ローガン「僕、誰にも言わない。」

レイチェル「あんたも大人になれば楽しさがわかるわよ。」

ローガン「うん・・・。」

レイチェル「じゃあ服を着たらもう部屋に戻りなさい。」

ローガン「はい。」









 


 




レイチェル「 (全然おもしろくなかったわね。それよりあいつ、悪いことってわかったみたいだわ。ビビってたし。親にチクられる前になんとか手を打たないと・・・) 」












 




ユウナ「お話ってなにかしら?」

レイチェル「ローガンくんのことですわ。」

ユウナ「え?ローガン?」












 



レイチェル「奥様、あの子を全寮制の学校に転入させることを強くおすすめします。」

ユウナ「全寮制??」

レイチェル「あの子はわがままが過ぎます。一人っ子で甘やかされてきたからですわ。」












 



ユウナ「たしかにローガンはちょっと甘えん坊なところはあるけど、でもまだ1年生だし・・・。」

レイチェル「1年生だからこそ、今入れたほうがいいんです。幼少期のほうが性格もしっかりしますわ。」

ユウナ「でも・・・・。」












 



レイチェル「あの子はこのままではダメな大人になってしまいます。わがままだけじゃないんです・・・。」

ユウナ「え・・・?」

レイチェル「あなたにはずっと黙ってましたが・・・あの子は誰もいないときにロッキーをいじめてるんですよ。」

ユウナ「そんな!だってロッキーはローガンにすごく懐いてるし・・・。」

レイチェル「自分より弱いものを痛めつけるのは、相手の気持ちがわからないからです。集団生活の中に入れるべきです!」

ユウナ「夫に相談しないと・・・・。」












 




レイチェル「なるべく早いほうがいいですわ。ロッキーになにか起きないうちに・・・。」

ユウナ「・・・・。」













 




ユウナ「どう思う?」

シン「ロッキーのことはわかんねーけど、たしかにあいつを甘やかしすぎたな。」











 




ユウナ「一人っ子だから甘えるのはしょうがないわよ。あの子は近所にお友達もいないし、ロッキーがずっと遊び相手だったんだから。」

シン「俺も全寮制の学校に入れるっていうのは賛成だな。」

ユウナ「本気なの?まだ1年生なのよ。」












 



シン「小学校の6年間だけだ。小さいうちのほうが集団生活にも慣れて自立心芽生えるだろ。」

ユウナ「そんな。6年間も・・・。」

シン「ずっと会えないわけじゃないだろ。夏休みなんかもあるし。」

ユウナ「でも・・・。」

シン「それにずっと二人目をほしがってたじゃないか。」

ユウナ「そうだけど・・・・。」












 



シンがユウナを抱きしめる。


シン「あいつなら大丈夫だよ。うまくやっていけるって。」

ユウナ「うん・・・・。」

シン「次は女の子がいいな。二人でも三人でも、がんばって作ろう。」












 



ユウナ「そうね・・・・。寂しいのは私自身なのかもしれないわね。」

シン「そうだな。」

ユウナ「あの子のためになるなら・・・・・。」











 



入学の手続きはあっという間に終わり、俺は1週間後には家を出ることになった。













 




ユウナ「ローガン、週末は会いに行くわね。元気でね。」

ローガン「うん。絶対会いに来てね。」

ユウナ「もちろんよ。」

ローガン「きっとだよ。ロッキーも一緒にね。」

ユウナ「えぇ。連れて行くわ。」

シン「じゃあ、行くぞローガン。」












 



レイチェル「 (これで一安心ね・・・。掃除をさせる相手がいなくなるのはいやだけど。) 」












 




ユウナ「 (これでいいのよね?あの子のためにも・・・・。) 」












 




シン「楽しみだなローガン。友達たくさんできるといいな。」












 




ローガン「うん・・・。」













 


















 



全寮制の学校に転校してきた俺は、さっそくいじめの洗礼を受けた。
俺は極力目立つことをさけ、地味にするためにメガネをかけた。
おかげで本当に目が悪くなった。
それでもいじめがやむことはなく、俺は空手を習い始めた。
空手が上達すると同時にいじめはなくなり、誰も俺に近づかなくなった。
小学校時代に楽しい思い出なんかひとつもない。












 





小学校を出て俺はあの家に戻った。
正直、あの家で暮らすのは苦痛だった。
嫌な思い出しかない俺にとっては、あそこは居心地のいい場所じゃなかった。
空手を続けていた俺にとって、忙しい毎日は幸いだった。












 



思春期になった俺は、あいつが俺にしたこと、両親がしていたことを理解するようになり、ひどいトラウマが復活した。
ずっと忘れていたのに・・・。
それから女に対して不信感を抱くようになった。
結局は母さんも俺を守ってはくれなかった。
あの女に対しての憎しみより、俺を遠くへ追いやった両親への憎しみのほうが強かったのかもしれない。












 



中学に入った俺はなぜかモテた。
空手とこの容姿のおかげだろう。
おかげで女には困らなかった。
はじめての相手は3年の先輩だった。
俺は女に対する不信感を、体の関係を持って相手を支配することによって満足を得た。
俺にとっての精神安定剤みたいなもんなんだろう。
セックスを知るにつれて、両親への憎しみは薄れていった。
結局二人目には恵まれなかった。
哀れみさえ感じる。












 




3年であの家を出てここへやってきた。
俺は喜んだ。
もうあの家に帰らなくてすむ。
ここは居心地がいい。
ディーンは変に詮索してこないし、一緒にいると落ち着く。
それ以外はなにも変わってない。
ラベットの事件があって、俺はララに自分を重ねた。
俺は幼い自分を守りたかったのかもしれない。
あのとき、誰かが俺を守ってくれていたら、俺はこんな人間にならなくて済んだのかな・・・。
・・・・過去にはもう戻れない。