秋が過ぎ、冬が近づいた冷たい雨の日。











 



アイビーはジーンの家にいた。
母親のジェニファーは仕事にでかけているので深夜にならないと帰ってこない。












 



アイビー「ねぇジーン?」

ジーン「なに?」

アイビー「いっつもキス止まりだよね?」

ジーン「え・・・?」












 



アイビー「それ以上進んでも・・・・いいんだよ?」

ジーン「・・・・・うん。」

アイビー「私のこと、大事に思ってくれてるの?」

ジーン「・・・・・アイビー。」











 



アイビー「うん?」

ジーン「お前に・・・・・言わなきゃいけないことがあるんだ。」

アイビー「なあに?」

ジーン「俺・・・・。」











 




ジーン「俺、卒業したら・・・・・ニューヨークに留学する。」

アイビー「え・・・・?」












 



ジーン「スタイリストになるのが夢だっていったろ。いろいろ考えたんだ。そしたら店長がプロになるならファッション留学してもっと世界をみたほうがいいって。」

アイビー「・・・・。」

ジーン「探したら奨学金も出る学校がニューヨークにあったんだ。」

アイビー「・・・・。」

ジーン「だから、そこ受けようと思ってる。」

アイビー「・・・・。」

ジーン「先生の推薦ももらえることになった。これ以上欠席しないでちゃんと学校来ることが条件だけど。」











 



ジーン「俺たちに遠距離は無理だ。お互いの負担になる。」

アイビー「え・・・・?」

ジーン「俺が卒業したら・・・・・・・別れよう。」

アイビー「・・・なに・・・言ってるの・・・・?」

ジーン「勝手でごめん。」

アイビー「・・・・。」

ジーン「アイビー・・・・。」

アイビー「・・・・。」











 


無言のままアイビーがすくっと立ち上がった。


ジーン「アイビー・・・?」


ふらふらと歩き出し、そのまま玄関へ向かう。


ジーン「ちょっと待って。」












 



ジーン「ちゃんと話したいんだ。」

アイビー「いやだ。私は聞きたくない。」

ジーン「アイビー、ごめん。でももう決めたんだ。」

アイビー「いやだよ!!」












 



アイビー「いやーーー!!」


アイビーが突然泣き叫ぶ。
ジーンが抱きしめるとジーンの体にしがみついた。


アイビー「うわーん!!!・・・・・いやだよぉ~・・・・・・。」

ジーン「アイビー・・・・ごめん・・・・・・・。」

アイビー「うわ~~~~ん。」












 



アイビーはいつまでも泣き続けていた。
駄々っ子の子供のように。
ジーンにはその小さな体を抱きしめてやることしかできなかった。













 




元気のないアイビーを心配して、放課後ララとラトーシャがアイビーの家に集まった。


ラトーシャ「目がすごい腫れてるし、泣き疲れた顔してるよ。」

ララ「ジーンさんのこと・・・?」









 




アイビー「・・・・・・・留学するって。」

ラトーシャ「どこに?」

アイビー「ニューヨーク・・・・。」

ラトーシャ「そりゃまた遠いね。」

ララ「でも別に海外ってだけで、今じゃネットもあるんだしいつでも・・・。」











 





アイビー「卒業したら別れるって。」

ララ「え・・・?」

アイビー「遠距離は無理だから・・・・。」

ラトーシャ「それは・・・・・つらいね。」

ララ「・・・・・。」

アイビー「私は絶対別れたくない・・・。」

ラトーシャ「そうだよね・・・。」

アイビー「でもお互いの負担になるって・・・・・・。そんなの・・・・・別に平気なのに。」

ララ「・・・・。」

アイビー「ただでさえ遠いのに・・・・別れるなんてやだ。私も向こうの学校に・・・・。」












 



急にララが立ち上がった。


ラトーシャ「ララ・・・?」













 



ララがアイビーの前に立つ。


アイビー「・・・・。」

ララ「あんた・・・・好きな人の夢を壊したいの?」

アイビー「え・・・・?」

ララ「負担になるって言ってるのがわからないの?真剣に夢にむかって進みたいのよ!」












 



ララ「それがなに?全部自分のわがままじゃない!」

ラトーシャ「ララ。」

ララ「好きな人の夢を応援するのが彼女の役目でしょ?!好きなら応援して笑顔で見送ってあげなさいよ!!」

アイビー「・・・・。」

ララ「甘えるんじゃないわよ!!あんたどんだけいままで大事にされてきたかわかってないの?!いままで付き合えただけ幸せだと思いなさいよ!!」


ラトーシャ「ララ!」












 



ラトーシャが立ち上がり、ララに平手を食わせる。


アイビー「!」


アイビーも思わず立ち上がった。












 



ララ「うっ・・・・うわ~ん。」


ララが泣き出す。


アイビー「ララ・・・。」












  




ラトーシャが泣いているララの体を抱きしめた。


ラトーシャ「殴ってごめんね。あんたの気持ちはわかるけど、あたしたちには口出しする権利ないんだよ。これはアイビーとジーン先輩の問題なんだから・・・。」

ララ「ううっ・・・・・。」


ララがラトーシャの肩に顔をうずめて泣き続ける。
ラトーシャがやさしくララの背中をなでた。












 




アイビー「うっ・・・・・・え~ん。」

ラトーシャ「ちょ・・・なんであんたも泣くのよ。」

アイビー「だって~・・・・ごめんなさぁい。」

ラトーシャ「ぷっ。ホント二人とも・・・・バカなんだから・・・・。」













 




数日後、学校が終わったアイビーがアンダーソン家を訪ねた。
玄関のチャイムを鳴らすとソロモンが出てくる。


ソロモン「おー、アイビーじゃん。久しぶり。」

アイビー「ソロモン兄ちゃん、こんにちは。」












 




ソロモン「お袋に用事?」

アイビー「うん・・・・。メアリー伯母さんいる?」

ソロモン「いま親父と二人ででかけてるんだ。もうすぐ帰ってくるはずだから、入って待ってなよ。」

アイビー「うん。ありがとう。」

ソロモン「コーヒー飲むか?」

アイビー「うん。」












 



ソロモンがアイビーのためにコーヒーを淹れた。


アイビー「ありがとう。」

ソロモン「懐かしいな、その制服。」

アイビー「ソロモン兄ちゃん、卒業して何年?」

ソロモン「今年25だからもう7年か。はえぇなw」

アイビー「バンドやってるんだよね?」

ソロモン「あぁ。なかなか芽が出ないんだけどな~w 親父やお袋みたいにはうまくはいかないみたいだw」











 



玄関のドアが開いて伯父のプロトと伯母のメアリーケイトが入ってきた。


プロト「ただいま~。」

ソロモン「おかえり。」

アイビー「プロト伯父さん、こんにちは。」

プロト「お~、アイビーちゃんいらっしゃい。」












 




メアリーケイト「あらアイビー、久しぶりね。」

アイビー「メアリー伯母さん、お帰りなさい。お邪魔してます。」

ソロモン「思ったより早かったな。」

プロト「もしかしてずっと待ってたのか?」

アイビー「ううん。さっき来たばっかり。」










 



ソロモン「お袋に会いに来たんだって。」

メアリーケイト「あら、そうなの。」

ソロモン「じゃあ俺はそろそろバイトの時間だから行ってくるわ。」

プロト「いってらっしゃい。」

アイビー「いってらっしゃい。ソロモン兄ちゃんコーヒーありがとう。」

ソロモン「おう。ゆっくりしていきなよ。」












 



メアリーケイトがアイビーを連れて裏庭のテラスへやってきた。
メアリーケイトはアイビーの母、クレアの姉にあたる。
双子の妹で次女だが、アイビーにとっては昔からなんでも話せる姉のような存在だった。
悩み事があるといつもメアリーケイトに話を聞いてもらうのが当たり前になっていた。











 



メアリーケイト「なんだか思いつめた顔をしてるわね。」

アイビー「あのね、伯母さん。」

メアリーケイト「うん?」












 




アイビー「伯母さんがプロト伯父さんと出会ったのは高校のときだよね?」

メアリーケイト「そうだったわね。」

アイビー「その頃から伯父さんはミュージシャンを目指してた?」

メアリーケイト「そういえばそうだったかな。ギターは一番うまかったね。」











 




アイビー「その頃もし伯父さんが、海外に音楽留学するって言ってたら・・・伯母さんはどうした?」

メアリーケイト「海外に留学ねぇ・・・。う~ん、私も同じ道を目指してるからねぇ。一緒に行ってたかもしれないわね。」

アイビー「もし伯母さんがミュージシャンを目指してなくて、年も伯父さんより下だったら?」

メアリーケイト「そうね~・・・・、それなら送り出してあげるかな。」











 



アイビー「もう一生会えないかもしれなくても?」

メアリーケイト「一生?」

アイビー「うん。海外に行く前に別れようって言われたら・・・・どうする?」

メアリーケイト「う~ん・・・・・それでも送り出すかな~。」

アイビー「・・・・。」












 




メアリーケイト「好きな人の幸せが自分の幸せだからね。応援してあげようって思うわね。」

アイビー「好きな人の幸せ・・・。」

メアリーケイト「でもハイさよならなんてちょっと寂しいじゃない?だから私なりに彼に近づけるように努力はするねきっと。」

アイビー「・・・・。」

メアリーケイト「いつかどんな形かはわからないけど、会えることを信じて、いま自分にできる精一杯のことをするかな。」











 
 
 



メアリーケイト「それに留学まではまだ時間があるんでしょう?その間の貴重な時間を大事にするわね。」

アイビー「・・・・。」

メアリーケイト「もうこれ以上思い残すことがないって思うくらい、あとで後悔しないくらいに、二人の時間をめいいっぱい楽しむ!」

アイビー「・・・・。」

メアリーケイト「思い出作り、っていうとちょっと悲しいかもしれないけど、あとで後悔するよりはいいと思うわ。」











 
 


メアリーケイト「後悔しないようにしなさい。あなたにできることを。やりたいようにやりなさい。」

アイビー「・・・・。」

メアリーケイト「でも彼の前では悲しい顔は見せちゃだめよ。あんたの悲しい顔を見たら、彼も負い目を感じちゃうかもしれないからね。」

アイビー「・・・・うん。」

メアリーケイト「さみしいときはいつでも会いにおいで。私はいつだってあんたの味方だからね。」

アイビー「・・・・・・・・うん。」